沼津の中心市街地活性化

ヨーロッパの中心市街地の現状


ヨーロッパの中心市街地の多くはにぎわいがある。その多くは、自動車の中心市街地への侵入を禁止した、歩行者専用区域を設置している。沼津と規模の似ている人口約20万人のオーストリアの工業都市リンツ市では、沼津のアーケード名店街と同じくらいの道幅の道路の自動車の通行を禁止し、公共交通機関として路面電車(トラム)を走らせた商店街がにぎわいを見せており、路上にテーブルを置いたカフェでは人々がくつろいだ午後のひと時を過ごしています。通りの建物はいずれも高さは5階程度で、新しく建ったショッピングセンターも街に調和した美しい街並みを見せています。


ドナウ川北岸の人口2万4千人の町クレムスでは、まちのはずれにある中世に建てられた門の内側が中心市街地の商店街ですが、この門から内側への自動車の進入を禁止します。その道幅の狭い商店街では、平日の午後にもかかわらず、同じ人口規模の日本の町ではありえないほど、地元の人々で賑わっており、道路上に置かれたカフェの席ではワインを楽しむ人の姿が多く見られます。


また、観光都市であるザルツブルグでも歩行者専用の細い道路が観光客や地元の人々で賑っています。これらの例に見られるように、ヨーロッパの街も多くの中心市街地が賑わいを見せている要因として、歩行者が安心して街歩きできるように、自動車の乗り入れを制限した都市中心部のまちづくりとマイカー以外のアクセスを実現するための路面電車や鉄道、トロリーバスなどの中心市街地への公共交通機関の積極的な整備があげられます。

歩行者中心の中心市街地の整備

一方、沼津の街を考えてみると、沼津市は大正2年の大火で中心市街地が焼失したのを契機に、区画整理事業が行われ、中心部を国道1号線が貫くとともに、南北の幅の広い道路が整備された。このため、戦災ののちもオフィスや大規模店が立地し、静岡県東部の拠点都市として発展することができました。しかし、沼津バイパスの整備などの周辺の道路整備やショッピングセンターの整備により、中心部では大規模店が相次いで撤退するなど、中心市街地の空洞化が進みつつあります。

先のヨーロッパの事例に見たように、中心市街地では歩行者が自由に街歩きできる空間が重要である。そこで、沼津で問題となるのは中心市街地を貫く旧国道1号線の存在であす。仲見世商店街から新仲見世商店街の間にある旧国道が、南側に人々が訪れる際のバリアになっています。アーケード名店街や新仲見世を含む南側の商店街に人々が訪れにくい障害となっています。

沼津バイパスが整備された現在では、かつてのような旧国道1号線の役割はなくなっています。中心市街地をすべて歩行者専用地域としてゆったりと過ごせるようにするためには、駅前通りから上本通りまでの自動車の進入を禁止し、歩行者が自由に通行できる空間とすべきです。それが、どうしてもできないというのであれば、かなりの予算は必要となりますが、旧国道1号線のアンダーパス化も一つの方法でしょう。さらに、地下に駐車場を整備するのも検討に値すると思います。

ヨーロッパの多くの都市の中心部には広場がある。ドイツやオーストリアの都市の教会や市庁舎などに囲まれたマルクト広場では、クリスマスマーケットや収穫祭などの市が立ち、四季折々のイベントが開催されています。そこは、地域の住民の交流の場であるとともに、観光客と地域の触れ合いの場として重要な役割を果たしています。

現在の沼津市の旧国道1号線はまさに、中心市街地の中心に位置しているため、ここを広場として開放し、朝市やよさこいなどのイベントを開催することにより、中心市街地全体の魅力を高めることができるのではないでしょうか。


富山市では総曲輪の再開発(総曲輪フェリオ)に伴い、全天候型のイベント広場(グランドプラザ)を整備しましたが、一年を通じて各種イベントが開催され、かつての賑わいを取り戻しているとのことです。

札幌市の大通公園も市街地の中心部にあって、市民や観光客の憩いの場となっています。四季折々にはイベントが開催されます。冬は11月からさっぽろホワイトイルミネーション、2月の雪まつりは有名ですが、6月にはYOSAKOIソーラン祭り、7月にはビアガーデン、2008年からは9月から10月に「食」をテーマとした「さっぽろオータムフェスト」も開催されるようになり、四季を通じて多くのイベントが開催されています。

東京の日比谷公園や高松市の中央公園なども中心市街地の公園として、イベント会場となっています。このように、中心市街地の広場や公園は市民の憩いの場であり、イベントなどを通じた様々な交流の場、人と人との絆を広げるコミュニティの場として重要な意味を持っています。 現在の沼津には中央公園が年間を通してイベントが開催される場としての機能を果たしていますが、人が最も集まる商店街の中心部にこのようなイベント開催の場があることが、中心市街地の活性化にとっては、強く望まれます。

トランジットモールの整備

もうひとつの提言は、軌道系公共交通機関の整備充実で、その一つがLRTの整備です。ヨーロッパの例でも明らかなように、中心市街地へのアクセス整備は、まちなか再生にとって、とても重要なことです。最近、フランス、ドイツなどのヨーロッパ各地で路面電車が復活しています。フランスでは1994年にストラスブールの市電の復活以降各地で市電が復活し、現在15都市で市電が走っています。今後も、7都市が市電の復活又は新設を予定しているとのことです。


アムステルダム

日本でも中心市街地への公共交通機関のアクセスが、そのにぎわいを維持・発展させる上で重要であることは、ヨーロッパと全く変わることはありません。公共交通機関のなかでも、LRTなどの軌道系の交通機関は二酸化炭素を排出せず環境への負荷が小さいこと、高齢者でも安心して利用できること、定時性が確保できることなどの理由により整備が望まれます。熊本市、長崎市、鹿児島市、松山市、高知市、高松市、広島市、岡山市などの西日本の都市は、いずれも軌道系の公共交通機関が都市中心部に乗り入れていることが中心市街地の活性化に大きく寄与しているのではないかと思われます。


富山市では廃止予定のJR富山港線を第三セクター化し、富山駅前まで併用軌道を敷設して延長したLRT、富山ライトレールの整備により、増便による利便性向上もあって輸送人員が増加し、高齢者の外出の機会が増えたとの結果が出ています。

アーケード名店街を整備するにあたり、自動車の進入を禁止すること。併せてアクセス手段として、沼津駅からアーケード名店街を経由して沼津港までのLRTの整備を提言したいと思います。沼津港は年間100万人以上の観光客が訪れる有数の観光地であるが、マイカーによるアクセスが多いため、市の中心部の元商店街に対する経済波及効果は少なく、市民には三つ目ガード付近の渋滞や、沼津港周辺の混雑など市民生活にはマイナスの要因となっています。

リンツのトラムのようにアーケード名店街を経由するLRTを整備し、自動車を締め出して、歩行者と公共交通機関だけ通行可能なモール、トランジットモールを整備することにより、市民の商店街へのアクセスが確保されるだけでなく、沼津港を訪れる観光客による商店街の活性化、三つ目ガードの渋滞解消も期待できます。

都市近郊鉄道の整備充実

さらに、公共交通機関としては都市近郊型の電車も重要です。現在沼津駅にはJR東海の東海道線と御殿場線が発着しています。東海道線は1時間に上り5本程度、下り4本程度発着している。御殿場線は2本程度発着しています。一方、三島駅の伊豆箱根鉄道駿豆線は1時間に3本程度発着しており、しかも駅の間隔が全般に短く、中心市街地に近い広小路駅があることなど、三島市の中心市街地の方が鉄道による集客力は高いのではないかと思います。

駿豆線を東海道線に乗り入れさせて沼津まで延長運転させることは可能であり(既に行き先表示も車両に整備済み)、沼津市の中心市街地の集客力を高めるためにも乗り入れを進めるべきです。また、比較的、駅と駅との間隔が離れているJRの東海道線や御殿場線の駅の数を増やしたり、御殿場線の複線化により列車本数の増加や運転速度のアップを実現して、周辺住民の中心市街地へのアクセス手段として、都市近郊鉄道のサービスレベルを高めていくことが望まれます。

高松市丸亀町商店街の再開発

中心市街地の活性化のためには、歩行者が一日中ゆっくりと過ごすことができる快適な都市空間の存在が重要です。大規模なショッピングモールは人工的に快適な都市空間を作り出していますが、既存の市街地の魅力ある都市空間としてが整備されれば、大規模ショッピングモールに対抗できる集客力ある街をとなります。その一例が高松市の丸亀町商店街の再開発です。

高松市には、全長2.7キロに及ぶアーケードが中心市街地の縦横に整備され、市民や周辺市町の来訪者で賑わう、全国有数の商業集積がある中心市街地が広がっています。しかし、最近、郊外の道路整備と瀬戸大橋開通以降の県外資本の進出に伴い、大規模な商業施設が郊外に立地し、中心市街地の商業売上が大幅に減少しています。このような状況に危機感を抱いた中心市街地にある丸亀町商店街では、さまざな議論の末、今後100年を見据えて再開発に着手しました。すでに、商業施設、コミュニティ施設、住宅からなるA街区(一番街)の再開発施設の整備が完了、B街区、C街区にも着手し、7つの街区の全街区の再開発工事が行われようとしています。これが実現すれば、全国的にも例を見ない一つの商店街全体の再開発が実現することになります。このような再開発が進んでいけば、全国の中心市街地は蘇ります。

この再開発の特徴は、従来よく行われてきた行政主導の再開発ではなく、また、大手のデベロッパーの主導でもなく、商店主らの地権者自らの主導により再開発を行ったことです。そのために、住民の合意を得るとともに、事業費が肥大化するのを防ぐために定期借地権制度を利用し、全体の管理運営を一体的に行うためのまちづくり会社を地権者の出資により設立するという特別の仕組みをつくっています。

アーケード名店街の再開発の意義

このような地権者主導による一体的再開発は全国的に例がないものですが、商店街全体を一体的に開発したという意味で唯一の例外といえるのが沼津市のアーケード名店街です。アーケード名店街は、昭和30年代に建築された共同店舗型の商店街として、商店街全体の共同ビル化が行われたという意味で、画期的なものであり、当時、全国から視察者が訪れ、関係者の間では大変有名となった商店街です。

この商店街も、建設後50年を経過して老朽化が進み、今後想定される東海地震などの地震により、崩壊の危険性が懸念されます。居住者だけでなく、買い物などに訪れる来訪者のためにも、耐震構造化するための建て替えが急がれます。

高松市の丸亀町商店街の仕組みは画期的なものですが、全国的には直ちに同様の事例が生まれる状況にないのが現状です。その原因は、地権者全員の合意が容易に取れないことにあります。丸亀町商店街も構想がスタートしてから第一期の完成を見るまでに10年以上の歳月を要しています。この事業スキームが前例がなかったことも影響していると思われます。

この商店街が、結果的に成功したのは、駐車場事業により収益を上げており資金が潤沢であったこと、隣接して百貨店三越が立地するなど第一期の事業個所が市内でも有数の商業拠点地域であったこと、先進的な考え方を持った推進役が複数存在したことなどの環境が整っていたことが理由として挙げられます。

一方、アーケード名店街については、すでに共同事業の実績があり、上述の老朽化の現状から、関係者の合意が比較的得られやすいという側面があり、すでに高松の事業スキームの前例があるという点でも、より迅速に事業化できるのではないかと思われます。この手法により、アーケード名店街の再生が実現すれば、ほかの沼津市内の商店街でも再開発の気運が盛り上がり、沼津市の中心市街地全体の再生が加速度的に進展することが期待されます。

この手法による民間主導の再開発による地域再生は、中心市街地の再生の手法として全国に応用が可能であり、商業の活性化やまちなか居住によるコンパクトシティの実現、災害に強いまちづくりの実現など都市再生の切り札として位置付けられます。また、地域の建設業者においても新たな需要が生まれることになり、地域雇用の観点からも期待されます。行政においても、公共性をもった事業であり、制度面、融資面、交通規制面などで積極的な支援が望まれます。

このように、アーケード名店街の再開発は住民主導、地権者主導による再開発として画期的なものであり、今後のまちづくりや「新しい公共」によるインフラ整備の手法として、都市再生における革命的な一ページとなることが期待されます。