都市の構造変化に対応した危機対応力の向上

1. 都市の危機管理とエリアマネジメント

(1) 危機管理の本質

昨年来、新型インフルエンザ、口蹄疫などの感染症対策をはじめ、多くの自治体では危機管理を経験してきた。また、世界的な大企業でもトヨタのリコール問題やBPのメキシコ湾原油流出事故など重大な危機管理事案が発生し、企業経営における危機管理に関する議論が高まりを見せている。

危機管理の本質は危機の発生という平常時と極めて異なる状況の中で、損失を最小限にするために、いかに適切なマネジメントを行うかということにある。そこには、危機のもつ突発性、巨大性、緊急性、深刻性といった特殊性に起因する平常時とは異なる特別のマネジメントを要するという問題がある。

一方、重大な危機の発生は世界的には珍しくないが、一個人や危機管理を日常業務としない組織にとっては極めてまれなことであり、そのことが多くの組織において危機発生時に適切な対応ができない要因となっている。

(2) 危機に強い組織づくり

最近のいくつかの危機への対応を見て指摘できることは、危機発生直後、初動時における対応が極めて重要であること、すなわち限られた情報の中で、将来発生が予想される状況を推測しながら、組織全体で危機に関する情報を共有し、適切かつ迅速な対応をとることが危機管理の基本原則だということである。

初動時における適切な対応をとるということは組織のマネジメントの問題である。危機管理に強い組織は、前例にとらわれずに、状況を把握、分析し、迅速な対策を意思決定できる力をもっている。特に、危機発生時には、調整型の時間のかかるボトムアップ方式ではなく、トップダウンによる迅速な意思決定が不可欠であり、日本型組織においては特に留意しなければならない。

トップだけで判断できないのであれば、意思決定をサポートするスタッフを置くとともに、トップへの情報伝達の仕組みをつくらなければならないが、いずれにせよ最終的にはトップの判断力とリーダーシップの問題である。

また、危機発生時に適切な対応をするために、危機のもつ性格、危機管理上の特性を理解していなければならない。2004年のスマトラ沖地震において津波という危機そのものが住民や行政関係者に理解されていなかったことは記憶に新しい。

さらには、危機管理を行うための施設や情報通信インフラの整備も重要である。危機管理施設の整備が我が国では遅れているが、それ以前の問題として、自治体の庁舎が被災して危機管理に支障が生じる事態が頻繁に起こっている。アメリカでは人口10万人規模の自治体にほとんど整備されている危機管理センターを、整備している日本の自治体は少ない。

(3) 危機管理のオペレーション

危機発生時においては、今後、発生しうる事象を予測し、事前に対処方針を策定し、対策を実施することが重要である。さらには、危機発生時に意思決定を躊躇しないように、危機の特性に応じて危機発生時に対処すべき組織体制や情報伝達の手順などについて、予め計画を策定しておかなければならない。

特に重要なのは危機発生時において経営資源(人、モノ)をいかに集中的に投入し、生命、財産の損失を軽減するかということである。危機発生時には経営資源は極端に不足する。自治体は危機管理担当部局だけではなく、行政組織全体、さらに他の自治体や国に対して応援を求める。

しかし、行政の保有する資源には限界がある。危機発生時におけるマネジメントの対象としての人的資源は行政の範囲に限定されず、市民や滞在者など域内に存在する人々やボランティアが行政と協力しながら事態に対処しなければならない。阪神・淡路大震災では地震発生直後の救出活動は、市民が中心となって行った。

(4) エリアマネジメントとしての危機管理―――都市構造の検証

一般に、危機管理とは組織のマネジメントの問題である。これを自治体に当てはめてみると、自治体のマネジメントの対象は自治体の組織だけではなく、域内の住民や滞在者、土地、建物、構築物、自然などで構成されるエリアそのものであり、それらすべてを管理し、保全し、活用しながら地域全体としての価値を高めていくことが、自治体におけるマネジメントの目的となる。

一方、自治体にとって、地域の構成要素は同時に経営資源でもあり、管理対象として総合的にとらえ、時間空間的な分析を加え、問題点を抽出して、対策を講じていくことがエリアマネジメント、すなわち地域経営の基本となる。

これらを危機管理の観点から検証し、現在の我が国の都市の現状からみて、都市のエリアを構成する様々な要素、都市構造に危機に対応する力があるか、さらには今後の都市構造の変化がどのように危機対応に影響するか、その両面について課題を提起したい。

2.現在の都市構造の変化と危機対応力

(1) 現役世代の減少による都市活力の低下

都市の力の源泉は人口の集積にある。人口の集積がコミュニケーションを活性化し、知的生産活動の源泉となる。人と人との出会いが消費を誘発させ、地域の経済活動を活発化させる。特に、工業社会から情報社会へと社会が転換するにつれて、生産活動の主流は知的活動となり、人と人との情報の交流が基盤となっている。

ところが、現在の我が国では生産年齢人口の急激な減少が起こりつつある。特に団塊の世代が65歳を超える2012年にはいわゆる「2012年問題」が起こる。日本国内で、2011年から5年間で500万人、率で6%の生産年齢人口の減少が見込まれるとともに、同じ期間に65歳以上の高齢者は400万人、率にして15%の増加が見込まれる。これは都市における生産能力や消費能力など都市活力の源泉となる様々な活力の急激な低下を意味する。

すでに、県庁所在市クラスにおいては、支店機能の低下が地価の下落、都市活力の低下となって表れているが、この傾向がさらに進むことが当然予想される。

(2) 都市中心部の管理放棄建築物の増加

一方、商業機能も生産年齢人口の減少により消費需要が減少する中で、商業施設の売り場面積は郊外大型店の増加により拡大し、中心市街地の効率の悪い店舗は廃業し、シャッター通りが全国的に生まれている。

わが国の県庁所在市や中小都市の中心市街地の商業施設の多くが、日本経済が伸び盛りであった昭和40年代から50年代の経済成長期に建てられている。都市中心部ではこれらの商業ビルの老朽化が進み、本来、建て替えの時期を迎えつつあるにもかかわらず、空き店舗の増加や後継者の不存により、管理が放棄され、除却されることもなく放置されつつある。これら管理放棄建築物の増加は、中心市街地のエリアマネジメントにとって大きな課題である。

(3) 管理放棄住宅の増加と要支援住民に関するマネジメントの希薄化

同じことが都市部の住宅においても進みつつある。高度経済成長期に建築された住宅の多くは老朽化が進んでいる。団塊の世代が完全退職するなかで、耐用年数を迎えた住宅の改築意欲の低下が予想されるとともに、すでに、居住者の高齢化が進み、空き家となった住宅が管理されないまま多数存在する状況が生まれつつある。

さらに、居住実態が行政に十分に把握されていない住民が増えつつある。特に、空洞化が進む中心市街地周辺では、買い物などの日常生活に支障が生じ、親族の住む郊外への転居や老人ホームなどへの入居が進み、住民登録はされているが居住の実態がない住民が増えているものと予想される。

このことは100歳を超える所在不明高齢者の問題をきっかけに社会問題となっているが、それは氷山の一角であろう。この問題は、危機発生時における要支援住民のデータの不存在を意味するものであり、都市の危機管理における重大な問題として顕在化するだろう。

(4) 住民の共生型支援システムとコミュニティ基盤の崩壊

年齢構造の問題は我が国のエリアマネジメントにおける重要な課題である。それは、既存市街地の生産年齢人口すなわち活動的な住民の減少と、高齢化に伴う支援を要する住民の増加という問題である。年齢構造のアンバランスは災害発生時をはじめとして、様々な場面における地域内の住民による相互支援を困難にし、都市の共生型支援システムが崩壊する危機がすでに迫っている。あわせて、住民の郊外移転に起因する都市の広域化、分散化は、都市としての人口密度の希薄化、コミュニティの崩壊につながり、結果として危機対応力の低下を招く。

組織にとって、構成員の一体的な結びつきが危機発生時における重要な基盤として機能する。都市にとって重要なことは、市民が危機発生時に連携を図り、一体的に対応できることである。都市の分散化と人口構造の変化が自立可能な市街地機能の喪失、すなわち「限界市街地」化の進行につながり、同時に危機管理基盤としてのコミュニティという都市インフラの弱体化をもたらし、都市としての危機対応力が著しく低下する地域が発生しつつある。

(5) 人口・都市機能の分散化による危機対応力の低下

住宅の郊外化が進むとともに、自治体では地価の安い周辺部への公立病院などの公共施設の分散化が進んだ。さらには商業機能をはじめ都市の機能の多くが分散したため、都市の中枢性は薄れ、都市のもつ効率性が失われている。

危機発生時に交通網の分断が予想されるが、この時、分散している都市機能と住民をどう結び付けるかという問題が顕在化する。郊外の団地開発、公共施設移転によりこれらを結びつけるための道路延長が伸びきってしまって、要員や物資の輸送、負傷者の搬送などのオペレーションが極めて困難となっている。

3.危機対応力向上ための都市再生―――コンパクトシティの推進応力

 自治体はかつて都市郊外の開発を進め、住宅団地建設や幹線道路整備、小中学校、集会施設、水道、下水道などのインフラ整備を進めてきた。

 ところが、多くの都市では世帯数が減少する時代に入り、団塊の世代の現役引退後の都市における急激な活力低下とこれに伴う都市構造の脆弱化に備えて、必要な対策を取らなければならない時期に来ている。

いわゆるコンパクトシティの推進である。都市のダウンサイジングを進め、分散化した人口や施設を都市中心部に再集積させなければならない。

重要な対策は中心市街地の住宅機能と商業機能を集積させるための再開発である。都市中心部に静かに広がる商業施設や住宅の管理放棄問題を解決しなければならない。行政の支援により除却を推進するとともに、跡地の再開発のための誘導策を講じることである。

現在、多くの都市の中心部では中高層のマンション開発が行われている。そのこと自体は否定されるべきではないし、旧耐震基準から新耐震基準の建物に民間資本によりリニューアルされることは喜ぶべきことである。

 しかし、問題点がある。高層マンションでは日常生活の場が地上から遠いため、居住者の日常的なふれあいの機会が失われがちで、地域のコミュニティが成立しにくい。住民の日常生活における出会い、語らいの場をどうつくるかということが問題である。住民のコミュニティの場を備えた中低層の住宅を計画的に整備すべきである。あわせて日常生活に必要な商業機能や医療・福祉などのサービス機能を整備する必要がある。

 中心市街地における定期借地権制度を活用した中層の商業住宅兼用ビルの再開発を推進するとともに、福祉住宅や地域のコミュニティの場としての広場や集会施設の整備を進めるべきである。

 さらに、郊外に移転した公共施設を都市中心部へ再移転することも重要である。これらの整備は行政のリーダーシップのもとに、誘導措置を講じながら、民間と連携を図り、積極的に推進すべきである。