組織のマネジメントとリーダーシップ

日本型マネジメントの特徴と変貌

 現在の政治の混迷の大きな原因は、政治家のリーダーシップやマネジメント能力の不足、危機管理能力の不足に由来している。これらについては、ある程度の大きさで利益追求を行う、民間企業では当然に求められるものであり、よほど官僚主義的な企業間の競争のない分野の企業を除いて、企業間の競争の中で一定レベル以上の業績を維持、発展している企業のトップや経営陣には少なからず備わっているものである。

一方、官僚組織に代表される役所組織や公営企業、行政により権限が付与されている組織においては、マネジメントが硬直化し、経営改革が行われにくくなり、危機対応ができなくなる場合が多い。従来型の日本型組織や、同族会社、創業後一定年数を経て、経営が安定している企業においては、トップのマネジメントがなくても事業が回るようになっている組織も同様である。

従来の役所のマネジメント特徴は、日本の組織全般にある程度言えることだが、内部秩序重視のマネジメントであった。年功序列、終身雇用のシステムによる同質的構成員により組織される、固有の文化・風土を有する秩序維持重視の組織であり、リーダーの経験と勘に依存し、飲みニケーションに代表されるように、人間関係や精神論重視の組織であった。すなわち、言語化されたルールや、科学的なマネジメントの必要性が十分に認識されていなかった。

特に役所に特徴的なのは、法令やマニュアルに従う、前例踏襲型のマネジメントということである。法令に従い、公平で公正な手続きを重視することは、行政にふさわしいものであるが、一方では、硬直的であり、いわゆる「官僚的」で「融通の利かないお役所仕事」と揶揄されるように、世論の動向など状況の変化に機敏に対応するという点では大きな問題があった。

さらにリーダーの役割や責任の不明確性であることがあげられる。ピラミッド型組織は、一見責任体系が明確に見えるが、職位の縦方向の階層化と合わせて、多段階の稟議システムによるあいまいな責任体制、法令やマニュアル遵守によりリーダー不在でも自動的に動くマネジメント組織など、リーダーがマネジメントの力量を発揮する範囲が狭く、リーダーの役割・責任は軽薄、不明確であり、リーダーの地位や処遇は能力や業績による評価よりも年功や人間関係により与えられることが多いため、リーダーシップに対する関心が一般に低かった。

このように役所を中心とする日本の旧来型組織は組織としてのダイナミズムには欠けるものの、職員が共有する暗黙のルールのもとに、定型的業務を法令に遵守して確実に処理する組織としては安定しており、平常時には問題が生じにくい特性を持っていたが、このことが行政のマネジメント改革を遅れさせる一因となっていたことは否定できない。

行政経営をめぐる環境変化とマネジメント改革の必要性

 従来型の役所のマネジメントに対して、最近の経済社会環境の変化は大きな変革を求めている。一つは経営資源の制約化である。バブル経済破綻以降の経済の長期低迷による国・自治体を通じて財政状況は悪化し、定員の削減や業務のアウトソーシングが求められている。

一方で、地方分権の進展は自治体の権限を拡大させ、政策形成などの領域を拡大させるとともに、少子高齢化、IT化、国際化などの環境変化に伴うや行政ニーズの多様化・複雑化・高度化は行政経営の戦略性を拡大させている。限られて資源の中で、最大の「民」の満足度を達成するためには、政策のビジョンを「民」に示し、理解を深め、重点的、戦略的な資源配分により政策を実行する、マネジメントレベルの高い行政が求められる。

政府においては、このことはさらに重要な意味をもつ。少子高齢化対策、医療対策、科学技術・IT・金融などによる経済成長戦略、人材育成、地球環境問題、戦略的な農業・食糧対策、財政構造改革など国家の基本政策ビジョンと国家戦略を示し、これに基づいた資源再配分を行うため、国民や産業界をリードしていく強力なリーダーシップとマネジメント体制の充実が望まれる。

行政の組織は一部の部門を除いて、公務員以外と接触する機会が少なく、閉鎖的な組織であり、行政の組織を超えた問題やマニュアルにない問題に対する解決能力が極めて弱い。特に、行政ニーズの多様化・複雑化と経営資源の制約化のなかで、経済が右肩上がりの時代に可能であった行政内部の問題解決能力には限界が生じており、顧客である「民」との「協働」のもとに問題を解決することが求められている。「民」の知恵や能力、人材を積極的に政府や行政にとりこみ、連携を図りながら国家戦略や地域戦略を実現しなければならない。

行政のマネジメントが住民を構成要素として加えるためには、従来の経験と勘に頼る「見えない」内部指向型から、国民・住民に「見える」ルールに基づいたマネジメントに変貌しなければならない。それは、行政評価にみられるマネジメントの可視化であり、いわゆる「業務仕訳」も国民に見える形で行うマネジメントの一形態であり、強力なリーダーシップのもとに政策ビジョン、マネジメント戦略と連携した施策選択プロセスの高度化・精緻化・公正化が実現できれば、マネジメントツールとしての役割が期待できる。

マネジメントの戦略化

一方、従来のマニュアルにない行政課題の出現のなかで、政策重視、顧客志向、成果重視など新たな価値を生み出すことが行政のマネジメントに求められている。

職場レベルでは、給与・賃金カット、人員削減や団塊の世代の退職による人的資源の制約化、高齢者の再雇用、非正規雇用の増大、アウトソーシングなどによる職員の多様化、組織文化を異にする職員の存在は、職場におけるストレスの増大や人間関係の不安定化、組織に対する忠誠心の乖離など従来の年功序列、同質的文化に依存した職場マネジメントに不安定要因を発生させている。

これらの環境変化のなかで、行政組織では、内部規律中心の従来型マネジメントから戦略的マネジメントへの移行が課題となっている。それは、新たな行政課題に対応した成果重視型の政策形成・資源配分を行う戦略マネジメントと、資源の制約化、人的資源の多様化に対応した経営改革を断行するための高度な組織マネジメントへの移行である。

かつての職人芸としてのマネジメントに秀でた団塊の世代の大量退職の中で、今後、高度な戦略的マネジメントを継続的に実現していくためには、リーダーが担うマネジメントの手法をルールとして可視化・言語化して「知識」として学び、共有することが望まれる。

組織のマネジメントに慣れていないリーダーは、最初、とまどい、躊躇するだろうが、まずはマネジメントのルールを基礎から学ぶことである。これは行政組織のリーダーとなった政治家にも言えることである。

マネジメントの本質

 マネジメントの目的は、組織において人的資源など資源を活用して最大限の成果を得ることである。そのため、組織のミッション(使命・理念)・ビジョン(目標)を実現するための施策の体系である戦略を立案する。施策の優先順位をつけて、重要な(=効果が大きい)施策に資源を集中的に投入するとともに、優先順位の低い(=成果が小さい)施策は廃止する。一方、成果を得るには組織の能力を高めることが重要である。

そのためには、有能な人材を集めるとともに、個々の人材の能力が最大限に発揮されるように役割を与え、ミッションやビジョンへの共有・共感を深め、個人のモチベーションを高めるとともに、目標管理(MBO)を導入し、個人レベルでも目標達成に向けて業務の優先順位をつけて、最適な業務処理を可能とする組織をつくらなければならない。

戦略的マネジメントにおけるリーダーの役割

戦略的マネジメントにおけるリーダーの役割は大きくまとめると二つある。①組織のミッション・ビジョンの提示・共有化及びその実現のための戦略の立案、②組織のリソース(人的資源、財源、知的資産等)の配分・管理である。 行政組織は組織全体の国民・住民福祉の向上というミッションのもとに、分掌する組織がそれぞれのミッションとビジョンを持っている。

組織のリーダーは、組織のミッション・ビジョンを定め、実現するための方策に優先順位をつけて時系列的に体系化した戦略を立案する。それはビジョンと戦略を構成する方策の関係が論理的に説明できるものでなければならない。立案した戦略は言葉をもって、構成員に示され、理解され、共感されるとともに、個人レベルで戦略実現における役割が割り当てられ、目標が設定される。言葉による提示は、従来型の行政組織では、あまり行われていないが、マネジメントの基本である。

戦略の立案は、現状の分析を行い、課題を発見することから始まる。戦略を立案する上で、課題の発見が重要である。行政課題は通常は統計データや広聴活動により表面化する。課題は誰にもわかる場合もあるが、表面に現れない場合も多い。日常、当然だと思っていることが実は問題であり改革の必要性が高いことも多い。その反対に、当然に問題だと思われていたことが実はそのままで問題ないこともある。問題の発見は改革の出発点であり、問題発見力を高める必要がある。(改革意欲がないと無意識に問題を回避してしまう。)

現場から離れると課題が伝わってこない。大企業のマネジメント能力の優れたトップが工場や販売店などの現場に出向き、自分の目で確認して課題を発見することがよく行われる。役所も本庁にいるだけでは問題が見えてこない。特に、業務運営上の課題(人員配置、予算、人材、業務プロセスなど)は見えにくい。現場の職員と心を開いて話し合うことによって課題が見えてくる。

 課題解決のためには、情報収集・分析に科学的手法や情報分析ツールを活用し、論理的に立証可能な戦略を立案しなければならない。リーダーの思いつきであってはならない。 戦略には、政策体系とともに、問題解決のプロセスや仕組みが含まれる。リーダーが交替しても組織が永続的に問題を解決し価値を実現していくためには、これらを改革し、可視化し、知的資産として組織内で蓄積することが重要である。

リーダーと資源管理

戦略を実現するに当たって、財源、時間、人的資源などの資源管理はリーダーの役割である。リーダーは職位などに応じて配分可能な資源が与えられている。資源を最適に配分して最大の成果を実現しなければならない。特に人的資源の配分には、能力・資質、性格、意欲、体調など様々な要素を考慮する必要がある。

組織の人材には、優れた能力の者もいれば、普通の人材、劣る人材もいる。重要なことは日常的なコミュニケーションや観察により、能力や資質を見極め、得意分野、性格、タイプ(創意工夫型、こつこつ積み上げる型、調整型など)など特性を理解し、適材適所に業務を割り当ることである。

メンバーがすべてスタープレーヤーで構成される組織が成果を得るとは限らない。重要なことは組織内の役割に応じた人員配置であり、個人が組織戦略の中で担うべき役割に力を発揮することである。能力の高い人に仕事が集中し、低い人の仕事がないような事態は避けなければならない。さらに、個人レベルでは役割に応じた目標を設定し、目標管理を行うとともに、励ましやねぎらいによりモチベーションを高め、成果を挙げる行動ルールの習得に向けて、個人の能力を引き出すことである。その際にリーダーは組織全体の目標の方向と個人の目指す方向が一致するように注意する必要がある。

コミュニケーション能力と人間性

リーダーは戦略の構築力や判断能力に優れているだけでは不十分である。組織のマネジメントは生身の人間を扱うことが中心である。人の気持ちを思いやり、気遣い、立場を理解しながら、組織のミッションに共感させ、目標に向けて最適な行動をとらせる能力が必要である。

相手の眠っている能力をコミュニケーションによって引き出し、組織の目標に向けて自発的な行動を促すのがリーダーの役割である。相手の言おうとしていることや気持ちを理解し、適切なアドバイスやコメントを伝えることにより、人を動かすコミュニケーション能力が重要である。

対外的なコミュニケーション能力はリーダーに不可欠である。リーダーの発言は重みをもつ。リーダーの発言が人々にどのように受けとめられ、どのように影響を及ぼすか、事前に想像力を働かせながら、熟慮しつつ発言を行うことが危機管理対応型のリーダーの鉄則である。特に、記者会見においては注意しなければならない。

さらに、行政組織には効率性だけではなく、民間企業にない住民福祉の実現と高度な法令順守や公平性が要求される。行政のリーダーには、職員から信頼される総合的な人間性、公務に対する公平性、倫理性などが備わって、はじめて全体の奉仕者としての公務員組織のミッションの実現が可能となる。行政改革において効率性が強調される傾向の中で、リーダーは行政の本質を忘れてはいけない。